この世界の片隅に
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こうの史代「この世界の片隅に」上中下

どうしてこの人の描く戦争はこんなにも静かで日常にまみれているんだろう。
最終巻がでたのでまとめて購入。一気読み。
そして今これを書く前に、いったい何度くりかえして読んだか。


表現方法が秀逸だとか、画風が独特だとか、構図が綿密に計算されているとか

そんなことは二次的な評価に過ぎない。

けれどそれをもふくめて、読み込まざるをえない人生がそこにあるのだ。


この物語は
絵を描くことが好きで、よく家の手伝いをして、
ぼんやりしていると家族に呆れ半分でからかわれながら愛された
その時代のどこにでもいる少女が、
自分の知らない理由で求められて広島から呉へ嫁ぎ、
よく働き、夫となった人を愛し、家族を愛し、
第二次大戦の中を軍都の街で家を守った筆録だ。
字のごとく、まさしく絵筆でもって描かれた物語(フィクション)だ。

だが物語に敷かれた本当が、見え隠れして我々の心に食い込むのだろう。
だから日常が心情が光景が心を打つのだろう。

大体私達は英雄的に生きていない。
ほんのささいな、電車の中で席を譲ることさえできずに寝たふりをするくらい。
日常を積み上げていく人生を経験則で知っている。
「死」ですらも、どこにでもある出来事だと、識っている。
ドラマチックは、それすらも、世界の中では些事なのだ、
ということに気づいている。

すずは周平の秘密を知る。北條家で起きたであろう波乱の一幕は
浦野家に知らされることはなく、すずは北條家の一員となったわけだ。
周平の心情は語られない。なぜ彼が選べなかった夢の後すずを求めたか、
すずも読者も知ることはない。できるのは推測だけ。
けれど最終話、失われたもの、新たに手にはいるものとともに、
ずっと手にもっていたものを描かれて、読み手は安堵するだろう。
影も光もこの世界を照らし続けるのだから。


二次的であるが、どうしても覚えておきたいことがひとつ。
描き手であるこうの史代は第35回から背景の描き方を意図して変える。
絵を描く者の端くれとして、その表現に驚嘆した。衝撃的だった。
これはまさしく絵で描かれなければならなかった物語なのだ。
この人の単純で素朴な「華のない」絵が、
こんなにも魅力的なのは
「絵を描いて物語を綴る」という行為に真摯に取り組んでいるからじゃなかろうか。

「夕凪の街 桜の国」とはまた違った、
味わい深いお話です。
戦争を、家の中から見た物語を、
激情や波瀾万丈であえて煽らない積み重ねの日々を、
ぜひあなたの片隅においてください。


なんて真面目な感想もいいけど、
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「さんさん録」全2巻
も、ほろ苦いオカシサで大好きです。
妻に先立たれた男が、小二の娘がいる息子夫婦と同居する話なんですけど、
なんだろうこのセンス。いちいちオチのつく人生の一コマを切り取って繋いでゆく、
こうの史代らしいシニカルな笑いも是非どうぞ。
これもっと続いてもいいのになー。2巻で終わりなんて残念すぎる。
【2009/05/19 20:09】 | れびゅーん | トラックバック(0) | コメント(0)
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